No.222, No.221, No.220, No.219, No.218, No.217, No.2167件]

俺ばかりが、この想いを抱えている。
俺ばかりが、想いを募らせている。
その事実を突きつけららているようで、それならばいっそ寝食を共にするのも終わりにしたかった。
しかし変わらず同じ布団で寝て、同じ食事をとって、ただカカシはもう俺に触れることはなくなり、俺を見ることをしなくなった。
それが刃のように胸に突き刺さり胸に血溜まりができていく。
冷静になれ、今は僧侶になることを、飛ばしで階級を上げることを第一に考えなければ熱心に教えてくれているカカシのしてきたことを無碍にしてしまう。想いが叶うことがないならば、せめてカカシの一番弟子として立派な僧侶にならなければいけない。
後ろ髪を引いていたのはいつの間にかひとふさどころではなく、俺の頭ごと引くぐらいになっていた。
明日、俺はカカシのそばから離れる。
その前夜、布団に入る前に俺は正座してカカシに頭を下げた。
「これまで、多くのことを教わり、感謝申し上げます。カカシのおそばにつかせて頂いた事は、かけがえのない経験となり……、……大切な、……、」
目頭が、また熱くなる。最後まで言え、言うんだ。
「……大切な記憶として、一生忘れる事はございません。今まで、……ありが……とう、ござい、まし、た。」
ぱた、と畳に水滴が落ちる。だめだ、泣いちゃだめだ。この涙腺が治るまで、何を言われても顔を上げてなるものか。
カカシは何も言わなかった。俺は頭を上げられないまま数刻経って、目にぎゅっと力を入れて面を上げると、一週間ぶりにカカシの視線とかち合った。
カカシは難しい顔をしながら視線を逸らしてため息をつく。
「どれだけ俺が我慢してきた事か……それを台無しにするような真似をしてくれたものだ……。」
独り言のように呟いたその言葉の意味を尋ねようか悩んだ。独り言に口を挟むのは無粋だ。しかし俺に向けて言ったのであれば何か答えなければならない。
「選択肢は二択……然し片方は取るわけにはいかない。それがサスケのためだ。けど俺の本心はその片方を望んでいる。……いや、サスケの将来を思うなら……。」

わかっていてもカカシの目を見ながらまぐわっているとどうしてもこの思いが溢れ出そうになってしまう。
カカシがそんな目で俺を見るからつい期待してしまうのだ。もしかしたら、僧侶になった後も、と。
僧侶に僧侶がつくなんて今の寺では見たことがない、そんな事はありえない。期待なんてしちゃだめだ。この関係はじき終わるのだから。
そう思いながらカカシを受け入れていると涙が出そうになってしまう。熱くなる目頭をぐっと堪えていつものように振る舞おうにもいつもどうだったかなんて覚えちゃいない。
いっそこの胸の内をぶちまけてしまいたい、泣きながらカカシに縋って離れたくないと喚きたい。そんなことをしても困らせるだけなのはわかっている。わかっているけれどこのまま終わるなんて嫌だと訴えたかった。カカシが好きだ、離れたくない、そう言えたならどれだけ胸のわだかまりがなくなることだろう。
刻一刻とその日はどんどん近づいていて、いよいよ残り一週間を切るとカカシは俺に手を出すことをやめてしまった。
どうして。
なんで。
カカシなりのケジメなのだろうか。
カカシは俺と視線を合わせることさえしなくなってしまった。
相変わらず勉学は熱心に教えてくれている。しかし俺の顔ではなく書物に視線を落としながら書かれている内容を補足する。
この記述に至った背景には斯様な出来事があり……説明するカカシの言葉を残らず拾って筆を走らせながら、こころに虚無が生じているのを感じていた。そしてその虚無は数日後、もっと大きくなっていることだろう。夢と引き換えに俺は大切なものを失う。仏様が目の前にいたとすればそんな俺に何とお声をかけて下さるだろうか。
人を愛しむことは正しい事だと教わった。それであればカカシは……カカシは俺とのまぐわいをやめることはなかっただろう。つまるところ遊びではないとは言えカカシにとって俺の存在は慈しむほどのものではなかったという事だ。
虚無が大きくなって行く……。

カカシが好きだ、離れたくない、このままずっとそばにいたい。
そんなことを言おうものならカカシも困ることだろう。カカシに課せられた役目は俺を僧侶にすることであって恋仲になる事ではない。そもそも稚児に過ぎない俺は元来僧侶の慰み者でしかないのにこんな思いを抱いたって報われることなんかない。

思わず口にしそうになる言葉を飲み込んでカカシの熱い視線を浴びながら戸惑い、この先のことを思うと目頭が熱くなってしまう。
もう、カカシとこうする事はなくなる。
その日が近づくにつれ胸に込み上げる気持ちは強くなって、でも俺は僧侶になることが夢でカカシはその夢を後押ししてくれていて、そして夢が叶うと同時に俺はカカシから離れなければならなくなる。
最初は痛くて仕方がなくて声を出すふりなどして嘲笑され早く終わってくれと願いながら受け入れていたこの行為はいつの間にか当たり前になり俺自身も望むようになり、そしてカカシという人物に対してどうしたら良いものか悩みながら遊びじゃないという言葉に胸が高鳴って、俺にはどうにもできないくらいにこの気持ちは膨らんでしまった。

今まで口付けなんて滅多にする事はなかったのに、あの日からカカシは後ろからじゃなくこうして正面を向き合ってまぐわいながら口付けをすることが増えた。
それが何を意味するのかわからないままその唇を、舌を受け入れているうちに俺はその口付けに夢中になってしまう。俺の知らなかった気持ちいいことがまだあったなんてと最初は戸惑ったけど回数を重ねるにつれ今日はするだろうかと期待するようになった。

なにやら騒がしい……

それがわかっているからなのか、カカシはもうそういうことに言及する事は無くなった。ただ、時折正面を向いたままめんどくせぇことが増えたと思う。俺はどこを見たらいいのかわからなくて天井に視線を向ける。あの目を見てしまったら俺の中の何かが変わってしまいそうな気がした。だから見てはいけない、そう思っているのにその天井に向けた視線を遮るようにカカシは俺の顔を自分に向けて、そして口付けをする。

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