No.385

人間の脳みそって残酷だなと思うよ、だって思い出したくない事を思い出させられる事もあるし、見なかった事にしたかった事も見せつけられることがある。
それも、夢の中で出してこられたら僕はどこにも逃げられないじゃないか。
……残酷だよ、本当に。
この左目を僕に託した仲間が死にゆく場面と、その仲間が守ってくれと僕に託した子を、僕がこの手で殺した事を、……思い出させたのだから。
目が覚めてから、案外冷静なんだなと、僕は思った。思い出したくないと昨日あれほど強く思ったのに、思い出してしまった事に対して、もっと取り乱すのかなと思ってたけど、こんなもんなんだね。
でもこの胸の苦しみがいつ強くなったのか、わかったよ。正しい事をしようとした結果死んだ仲間、正しい事をした結果僕自信が殺すしかなくなったあの子。正しい事をしたはずなのに、ねえ、何で死んでしまったの。違う、何で僕は見殺しにしたの、守れなかったの。正しい事を、したはずなのに。
……だめだ、これ以上考えたら。本は、あの本はどこに、あった。ページを、開いて、文字を。
自分を信じる、という表現が多く出てくる。誰かと関わる事で、優しさを覚えていく描写が。会話をすることで、誰かの気持ちが伝わる描写が。それらは僕を深い物語の世界に連れて行ってくれていたのに、どうして今読むと胸を針で突き刺すような痛みになるの。

僕は本を閉じて、あのガキの病室へ向かう。
骨がバキバキに折れてるくせに、座って外を見つめていた。僕に気がついて、名前を呼ばれる。
「……俺は弱い」
弱いなりに強い方だと思うけど。
「……全然足りなかった」
僕でさえ負けたんだから仕方ないよ。
「……復讐なんて、できるのか……」
まあ、厳しいよね。
「……あんたなら、俺を強く出来るか」
完敗してる身としては答えづらい質問だった。ある水準まではいけるけど、あいつは例外的な強さを持っていた。普通に鍛えても……多分無理だ。
「強くは出来るけど、ある段階まで強くなったら、自分で新しい技術や力の使い方を開発していく事になる。その段階までなら、強くできるよ。」
「そこまでいくのに、どれくらいかかる」
「……今13歳でしょ、まあ、16歳くらいかな。」
膝の上の手がぎゅっと握りしめられた。
「……3年も……」
ガキにとっては長いんだろう。けど日常的に戦う環境でない今、実戦経験がないままだとどうしても時間はかかる。けど僕はこのガキをどうにかしてあげたかった。出来ることは何でも協力するつもりでいた。でなければ、このガキは次にあいつと対峙した時に死ぬ。
「……っ!」
胸が、苦しい、部下が死ぬなんて、慣れていたはずなのに、こいつが死ぬところを想像した途端に……。
……死んで、欲しく、ない……?
違う……そんな単純なものじゃない……。
「……俺が守るし、強くするし、……もう死なせない」
守る?何言ってんだ、実力がない奴は死ぬ。それはこの世の力学だ、弱い奴を守るなんて、リソースの無駄で、正しくなんてない。
……正しさ……?
……正しい、事をしたはずなのに、あの二人は死んだ。父さんは、正しくないから死んだ。どっちなんだ、正解は。
僕が正しいと思ってきたことは、間違っていた?
父さんは、正しかった?
……違う、だって父さんは、正しくなかったから非難された、弱かったから死んだ、だから正しく、強ければ問題ない、はず、だろ。

keyboard_arrow_up