No.386

「あんた、なんて顔してんだよ」
そう言われて、ハッとした。顔の大部分は布で覆っているのに、それでも変な顔をしていたということ。
このガキの前では、何かが崩れる。何かが芽を出す。それでも放っておけない、この矛盾は何だ。
掘り返したくないことまで、このガキの前では。
「……昔を思い出してた」
正しいのは何だ。
「お前が気にすることじゃないよ」
俺はこれからどうするべきだ。
「今は回復が優先」
父も仲間も見殺しにしてきた俺は、俺の全部が間違っていた?
生き残るのはいいことだ、強さの証でもある。
死ぬことは悪いことだ、弱さの証だ。
父さんは、仲間は、弱かったから死んだんだ。俺の正しさとか関係なく、弱かったから利用されて、弱かったから罠にかかって。
『仲間を大切にしない奴はクズだ』
なんだ……これ。
仲間を、大切に?でも弱い奴を守ったって。
いや、俺は弱っちいガキ3人を、守って……違う、それは俺が先生だからで、役割として当然に。
……じゃあ、部下は。部下も上司なら、守らなければ……いけない……違う!弱い奴が死ぬのは戦では当たり前だ、俺は正しい事をしてきた!
たとえ、クズだろうと。……クズ、何でこの言葉が、こんなに胸を刺すんだ。
俺は……俺は、ずっとそのクズなことを、今まで、正しさのために、強くあるために。
「おい、あんた大丈夫か。」
……全身骨折で動けないはずなのに……なんでこっちに歩いてきてるんだこいつ……。
「昔のことって、何かあったのか。」
……色々あったよ、教えてやんないけど……。
「あんたが教えてくれたように、俺にとってもあんたは大切な仲間だ。……一人で苦しんでるのかよ。」
そういえば、このガキが弁当を分けたのを見て、反射的に合格出したんだった。
復讐を抱えながら根は仲間思いな……仲間……。
「……うん、俺はクズだから仲間大切にしなかった、だから大切な人はみんな死んだ。」
ガキの足が止まる。
「……昔の話だろ、それ。今は俺たちを大切にしてるじゃねえか。」
顔を上げた。俺が?仲間を?
「だからもう、クズじゃねえよ」
クズ……じゃ、ない……?
違う俺はクズだだって仲間は死んでる俺が大切にしなかったから!父さんだって俺が味方になってれば死んでなかったかもしれないのに俺は周りに同調して父さんが悪いと言ってだから父さんは死んで仲間も死んで大切だった人は全員死んで
「俺がいうことじゃないけどあんた、今は立派に仲間思いで強くて優しくて俺に力もくれた、俺たちにとってはなくてはならない大切な存在だ。」
嘘だそんなの嘘だ、俺は、クズだ、仲間を大切にしなかった、クズだ。
「もし昔何か間違ったことをしてたとしても、俺たちには正しい在り方を教えてくれてる、ちゃんと出来てる。だからそんな顔するなよ。」
会話が……あれは、そういうことだったのか。あの本に繰り返しでてきた……でも自分を信じるなんて、俺には出来ない、自分なんて何も信用できない。
「俺たちはあんたを信じてるからついていく。」
何でだろ、鼻水が出てくる。
あれ、目頭が……熱い。
俺は、クズ……クズ、だった?今は、クズでは……ない……?
ぎゅうと苦しかった胸の痛みが、ほろほろとほどけていく。比例するように、目から涙がこぼれ落ちる。
「3年後、俺を強くしてくれるんだろ。それまで通い詰めるからな。」
「……通わなくても、強くするよ……」
「いや、遅刻魔のあんたは信用ならないから、俺からいく。」
遅刻魔……そう、毎朝俺は……あれ、何してたんだっけ。
「信用されたり、されなかったりだね……」
「まあ、それがあんただし」
……この子を、強くしてあげなければ。俺を信じてくれているこの子を。他の二人も。
「ハンカチ、使うか」
……仲間想いってのは、そういうとこだよ。俺にはそういうこと、できない。だから……
「わかってなさそうだからもう一度言うが、あんたは俺たちの大切な仲間で先生だからな。あんま余計なこと考えるなよ。」 
……子供に説教されるなんて、思ってなかったな。
でも何でか、その言葉を信じたくなる。
もう一度やり直そうと思いたくなる。
「じゃあ、みっちりしごくけど根をあげないでね。」
「もちろん、かじりついてでもついていく」
物語の人々の言葉が、ストンと入ってくるかのようだった。
許されたわけじゃない、何が正しかったのかもわからない、けど少なくとも俺はこの子の前では、クズではなくちゃんと先生になれてるんだ。
ありがとう、と口にしようと思って、唇を結んだ。俺がやるべきことはそうじゃない。
これで、合ってるんだよな?なあ、オビト……。

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